細胞表面抗原である主要組織適合性抗原(MHC)の多様なメンバーのうち、特殊な生物学的機能を有するものが非古典的MHCと呼ばれる一群である。これらは通常の古典的MHCと異なり、細胞表面にペプチド分子を提示するのではなく、脂質などの特殊な分子を提示するものや、提示能そのものが欠損し他の生理機能を有するものが存在する。最近、見出された新規の非古典的MHCクラスI様分子のMILLファミリー(MILL1およびMILL2)は以下の性質を有することがわかった : (1) ペプチド提示能を有さない、(2) GPIアンカー型分子である、(3) 軽鎖(β2ミクログロブリン)に結合する、(4) MILL1は胸腺髄質上皮細胞に発現し、MILL2は免疫系以外のかなり多くの細胞に発現する。これらの性質は他の非古典的MHCの特徴と合致する部分もあるが、MILLそのものの生理的な機能の解明を目指して、本年度はMILL分子の作製とX線結晶構造解析に取組んだ。大腸菌を用いた発現と巻き戻しにより、MILLの細胞外ドメインを調製した。これを用いてMILL2については結晶化に成功した。ヨ-素誘導体の結晶データを収集した結果、位相決定に成功した。2.2Åの高分解能データのデータ収集に成功し、現在精密化を進めている。現時点では、これまでに報告されてきたMHCでは見られたことの無い大きなドメイン構造の変化が観測され、かなりユニークな構造を有する非古典的MHCと言える。これらの構造的特徴を基に機能を類推することを進めている。
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