研究代表者らは、昨年度から今年度にかけての研究で、生体内の虚血壊死組織の形成により、生体内で各種血管新生因子、サイトカイン、ケモカインの産生が亢進すること、さらにこれによって成体組織中のマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の活性化が誘導され、Kit-ligand(Stem cell factor)をはじめとする造血因子のプロセシングが促進され、血中に可溶型の造血因子が増加することを報告した。これに応じて、骨髄内の組織幹細胞の分化及びその増殖が賦活化され、末梢組織中で各種血管新生因子の供給源として機能し得る好中球、マクロファージやマスト細胞等の炎症性細胞群、ないしはCXCR4陽性VEGF受容体陽性で血管新生HUBとして機能するヘマンジオサイト等を含む骨髄由来細胞が、壊死組織中またはその周辺に動員されることにより、結果として血管新生・組織再生の基盤となる「虚血ニッチ(血管新生ニッチ)」が形成されることを示唆した。また今年度の研究では、骨髄内の巨核球系細胞の分化、血小板産生においても、やはりMMPがその起点となっていることを示し、さらに血小板が生体組織中では、ケモカインCXCL12の担体として機能し、「虚血ニッチ」の構成分子として機能していることを報告した。加えて今年度、代表者らは、生体組織中での潜在酵素proMMPからMMPへの活性化が、血液線維素溶解系(線溶系)因子プラスミンによって制御されていることを見出し、虚血壊死組織の再生が、遺伝子組み換え型組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)を投与することにより促進されることを明らかにした。その機序として、プラスミン生成促進とこれに伴うMMPの活性化、Kit-ligandのプロセシングを介した骨髄細胞増殖、さらに末梢組織中への骨髄由来細胞動員の誘導による、血管新生因子、組織再生因子の生体組織への供給の増加が考えられた。
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