ニューロンは、軸索と樹状突起という機能・構造的に異なる2つの神経突起を介して情報の受け渡しを行なっている。神経突起を介したニューロン間ネットワークの大枠は、ヒトでは胎生後期から生後にかけて構築されるが、その後、各ニューロンの神経活動が活発化すると、ネットワークの切り替えが頻繁に行われる。特に、視神経や体性感覚神経などの感覚ニューロンは、外界からの入力に依存して樹状突起形態を大きく変化させることにより、最終的に適切な受容領域を獲得する(1)。このような樹状突起の可塑的形態変化(リモデリング)は、神経回路が機能的に成熟するための必須ステップであるが、簡便な解析システムが確立されていないために、樹状突起リモデリングを制御する分子・細胞メカニズムに関しては未だ情報が乏しい。 我々は、ショウジョウバエ感覚ニューロンをモデルとして、樹状突起構造のリモデリング機構について研究を行った。ショウジョウバエ成虫が羽化してから24時間以内に、感覚ニューロンの樹状突起が放射状から格子状へと劇的にリモデリングされることを見出した。この樹状突起リモデリングは、神経活動に依存的であり、感覚刺激を遮断すると、顕著に阻害されることを見出した。さらに、ニューロンの周辺組織から一過的に供給されるマトリックス・メタロプロテアーゼ(Mmp)により、感覚ニューロン樹状突起の"足場"である細胞外マトリックスが局所分解をうけることが、樹状突起構造のリモデリングを誘導するトリガーであることを示した。これらの発見は、生理的もしくは病理的条件下において、ヒト脳内で起きる樹状突起リモデリングの分子基盤に関する手がかりを明示したと考えられる。
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