線虫C. elegansの発生の際、ほとんどの細胞は前後方向に分裂し、運命の異なった娘細胞を作り出す。これらの非対称分裂はWntシグナル経路によって制御されており、分裂の際、βカテニンなどのシグナル因子が細胞内で非対称に局在し、またこれらの細胞内因子の変異体では様々な細胞分裂の非対称が異常になる。しかし細胞外のWnt分子自身がどれだけ多くの細胞分裂を制御しているのか、どのように数多くの細胞を制御するのか明らかでなかった。複数のWnt分子が冗長的に働いている可能性を考え、線虫のゲノムに存在する5種類全てのWnt遺伝子に変異を持つ五重Wnt変異体を作成したところ、seam細胞と呼ばれる表皮系幹細胞の分裂が全て異常になり、これらの細胞は複数のWnt分子によって制御されていることが明らかになった。さらに、Wnt変異を組み合わせていくと、3種類のWnt (cwn-1、cwn-2 egl-20)によって制御されていることを明らかにした。これまでにいくつかの細胞においてはWntは細胞の後方に発現して極性の方向を制御していることが知られているが、seam細胞を制御するWntの発現を調べたところ広範囲で様々な細胞で発現しており、どのように極性を制御しているのか不明である。今後異所発現実験などにより、これらのWntによる極性制御機構を明らかにしていく。
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