脳神経系の成り立ちを理解するには、「細胞移動」と「軸索投射」の2つの発達プロセスの制御メカニズムを解明することが重要である。我々はこれまでに、ケモカイン受容体Cxcr4の機能を欠損したゼブラフィッシュ変異体の解析から、Cxcl 12/Cxcr4シグナルが嗅細胞(匂い受容神経細胞)の「移動(配置)」と「軸索投射」に必須であることを見いだしている。本年度は「ケモカインが軸索伸長経路近傍に存在する反発因子に対する軸索の応答性を減弱させ、投射許容シグナルとして機能する」という仮説の検証を行った。この軸索反発因子の候補として、以前我々が嗅細胞軸索投射における機能を見いだしたSlitが考えられる。 Slitの受容体Robo2の機能を欠損した変異体では、多くの嗅細胞軸索は嗅球へと投射するが、一部の軸索が軌道を逸れて間脳へと侵入する。 Cxcr4変異体の表現型(軸索が嗅球へと伸長できない)がSlitの軸索反発活性の増強を介しているのであれば、Cxcr4/Robo2二重変異体ではRobo2変異体と同様の表現型を示すはずである。そこでCxcr4/Robo2二重変異体を作製したところ、ほとんど全ての嗅細胞軸索が間脳に投射するというRobo2欠損表現型の増強が観察された。このことは、Slitがケモカインシグナルの直接的なターゲットではなく、2つのガイダンスシグナルが嗅球方向への軸索投射に対して協調的に働いていることを示している。 また、嗅上皮から嗅球への一次嗅覚経路だけでなく、嗅球から高次中枢へと至る二次嗅覚経路の形成におけるケモカインシグナルの役割についても解析に着手した。嗅球投射ニューロンである僧帽細胞サブセットで膜移行型YFPを発現するトランスジェニックフィッシュを作製し、Cxcr4変異体と交配を行った。現在、樹状突起の形態および軸索投射パターンについて詳細な解析を行っている。
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