骨髄微小環境を形成するニッチ細胞及び細胞外マトリックス群の本態、これらと造血幹細胞及び前駆細胞との相互作用の分子機構については未だ十分に明らかにされていない。リンパ球前駆細胞や造血幹細胞の著しい増幅がみられる抑制性アダプター蛋白質Lnkの遺伝子欠損マウスを起点とし、ニッチ細胞及び細胞外マトリックス群と造血幹細胞及び前駆細胞群の相互作用、制御シグナル分子機構について解析した。長管骨を骨端部、移行部、骨幹部に分けそれぞれから骨髄細胞を回収し、造血幹細胞が濃縮されているCD34-cKit+Scal+Lin-分画やCD150+CD41-CD48-分画の割合を解析した。造血幹細胞分画の割合は、野生型マウスではこれまでの報告の通り移行部で最も高かったが、Lnk欠損マウスでは骨幹部にも多く含まれ、移行部と骨幹部での差が少なく骨髄内全域で増加していることがわかった。トロンボポイエチン(TPO)刺激時にインテグリンリガンドであるVCAMの共刺激を加えると、野生型細胞ではStat5のリン酸化が低下する一方でErkl/2及びp38がより強く活性化した。Lnk欠損巨核球ではいずれの活性化もTPO単独刺激と比し変化なかった。形態をみると、BSA上では野生型及びLnk欠損細胞ともに類似した血小板産生形態変化を示した。VCAM上では野生型細胞が大きく伸展し辺縁から分岐に富む血小板前駆体を形成したのに対し、Lnk欠損細胞は辺縁のみならず細胞体からも突出する分岐の少ない血小板前駆体を形成した。LnkはTPOシグナルに作用し巨核球成熟を抑制しているだけでなく、インテグリンからのクロストークシグナルによる血小板放出制御機構にも関与していることが示唆された。
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