骨髄微小環境を形成するニッチ細胞及び細胞外マトリックス群の本態、これらと造血幹細胞及び前駆細胞との相互作用の分子機構については未だ十分に明らかにされていない。リンパ球前駆細胞や造血幹細胞の著しい増幅がみられる抑制性アダプター蛋白質Lnkの遺伝子欠損マウスを起点とし、ニッチ細胞及び細胞外マトリックス群と造血幹細胞及び前駆細胞群の相互作用、制御シグナル分子機構について解析した。 本年度は、遺伝子発現変化の影響が極めて少ない血小板を用い、細胞外基質からのシグナル受容におけるLnkの作用点を解明した。Lnk欠損マウスでは血小板が著増するものの血栓症はみられない。巨核球に発現するLnk蛋白質が成熟血小板でも保持されることから血小板の機能解析を行った。Lnk欠損マウスでは一旦止血した後に再出血を呈するマウスが多いことがわかった。骨髄移植後の回復期にあるマウスを用いてほぼ血小板数が揃った状態で検討したところ、Lnk欠損血小板を持つマウスでは出血時間が延長した。共焦点顕微鏡を用いた高速ビデオ撮影による生体イメージングにより、血管内皮障害による血栓形成における血小板二次凝集や血栓の安定化にLnkが必要であることがわかった。Lnk欠損血小板は、正常血小板がフィブリノーゲン上で起こすラミリポディア形成を示さず、フィロポディア優位な形態を示すことがわかった。αIIbβ3インテグリン活性化依存的にLnkがFynをリクルートしインテグリンβ鎖リン酸化に必要であることを明らかにした。この新規インテグリン制御系は細胞外環境による細胞応答制御への理解を深めるもので、また心血管障害の治療標的となる可能性を示したものとして期待される。
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