脳発隼におけるニューロン産生数の制御は脳の機能を構築する上で重要な要素である。脳の機能単位ごとのニューロン数の決定については、ニューロン前駆細胞の分裂回数が大きく貢献すると考えられている。しかしながら、この分裂回数の制御メカニズムを含め、ニューロン前駆細胞の数の制御メカニズムについてはこれまでほとんど未解明であった。我々はこれまでに、大脳新皮質由来の神経幹細胞に対してWntシグナルがニューロン分化運命を誘導することを報告した(Hirabayashi et al.2004 ; 2005)。そこで本研究では、Wntシグナルがいかなるメカニズムで回数の限られた分裂を促進するかを検討し、ニューロン前駆細胞の数の制御メカニズムを理解することを目的とした。本年度の研究によりさらに、Wntシグナルは転写因子N-Mycを誘導することにより、神経幹細胞をニューロン前駆細胞に「分化」させると同時に、ニューロン前駆細胞の「-過的な増殖を促進」するという結果を得た。この時のメカニズムとしてN-Mycがニューロン分化に重要なNgnの発現誘導に関わるという結果も得ることができた。以上の結果は、Wnt-N-Mycシグナルが、大脳新皮質発生においてニューロン前駆細胞の数を決める重要な制御因子であることを示している。これらの結果から本年度の研究によって「発生における細胞数の決定機構」について新たな手がかりが得られたと考えている。
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