雄性生殖細胞は誕生後に分裂休止状態から分裂を再開させて増殖する。雄性生殖細胞の増殖や分化は生殖細胞と体細胞環境の相互作用が重要といわれている。これまでに、XX型とXY型の胚を人工的に混ぜ合わせて作った雌雄キメラマウスの解析によると、XY型雄性生殖細胞は増殖して精子にまで分化するのに対し、まったく同じ環境下で存在するXX型雄性生殖細胞は分裂を再開せずに消滅してしまうことを証明してきた。 一方で、精巣内の体細胞の性染色体がXX型である場合、精子幹細胞から精子への分化に影響するのかどうかについては、ほとんど知られていなかった。そこで、我々は生殖細胞がなくなるXX型性転換マウス(XX-Sryマウス)の精細管内に野生型(XY型)の精子幹細胞を移植して、体細胞環境がもつ性染色体の役割を明らかにしようと試みた。 まず、我々は移植細胞の中に野生型の体細胞が混入するのを防ぐために、培養可能な精子幹細胞株であるGS細胞を樹立した。この樹立したGS細胞を幼若期のXX-Sry精巣に移植し、2-3ヵ月後に解剖したところ、移植したほぼ全ての精巣で精子形成が観察されることを確認した。さらに、我々はXX型精巣内で分化した半数体の精子細胞から顕微授精技術によって、産子を得ることを示し、精子細胞への分化が正常であることを示した、 ところが、GS細胞を移植したXX-Sryマウスから自然交配により誕生した仔は少数にとどまった。そこで、9か月齢を超えたマウスを解剖したところ、精巣から生殖細胞は、完全に消失していることが判明した。 これらの結果は、雄性生殖細胞を取り囲む精巣内の体細胞の性染色体が雌型であっても、精子幹細胞から精子への分化に支障はないが、生殖幹細胞の幹細胞性を維持して精子形成を繰り返し行うためにはY染色体が関与していることがあきらかになった。
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