生命のプログラムとしてのゲノムの情報が少しでも失われることは、生物にとって致命的である。そのためにすべての生物は外界から受けるDNA上のダメージに対する様々な防御機構を備えてきた。しかし、その防御機構も使う手段や場所を誤るとDNA配列の変異や染色体点座等の染色体不安定性を引き起こしてしまう可能性を秘めている。このようなリスクを回避するために細胞ではDNA上の傷を認識し、傷の種類や細胞のおかれた状態(細胞周期)を判断し適切な修復酵素群を傷害部位に会合させる制御メカニズムが存在すると考えられている。DNA傷害のひとつであるDNA二重鎖切断(DSB)の修復経路のひとつであるNHETに必要なDNAリガーゼIV複合体のサーブユニットである、酵母Lif1タンパク質の261番目のセリン残基がCDKによって、細胞周期依存的にリン酸を受けることを明らかにした。この結果に基づき、261番目のセリンをアラニンに置換した非リン酸化変異株を作製し解析を行った。その結果、S期においてDSB末端への変異型Lif1タンパク質の結合に欠損を示し、NHEJに欠損を示すことが明らかになった。この結果は、G1期に必要だと考えられていたNHEJがS期においてその機能が必要であり、DNADNA傷害部位へのリクルートにCDKによる活性を必要とすることを示している。つまり、NHEJの修復酵素のDSB認識機構はG1期とS期で根本的に異なるシステムによって行われることが明らかとなった。
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