研究課題
感覚細胞は分化と同時に分裂を停止して、その後長期にわたり生存が維持されるという特徴を持っている。この調節メカニズム解明は加齢にともなって発症する老人性難聴等の加齢性疾患の理解につながると考えられている。本研究では、細胞周期のG1期抑制に機能するebiの変異体が遅発性に感覚細胞変性を生じるという研究結果に基づき、G1期抑制機構がどのように感覚細胞の生存維持に働いているのかを解明することを目的としている。本年度の成果(1) ebiによる複眼光受容細胞の生存維持メカニズムこれまでに、ebiの機能欠損により複眼光受容細胞の生存維持が異常になることがあきらかになっていた。そこで、遺伝学的な解析から、ebiによる生存維持に働く因子を検索した結果、ショウジョウバエc-junホモログであるD-junが見いだされた。D-junの機能低下によりebiによる感覚細胞の変性が抑制される事が確かめられ、生化学的な解析の結果、EbiはD-junと複合体を形成していることが明らかになった。ebiの機能欠損における遺伝子発現変化を検討した結果、複数のAP-1標的遺伝子発現が上昇していることが確認された。以上の結果から、EbiはAP-1と共役する転写抑制因子として働き、感覚細胞の生存維持に関与している事が示唆された。(2) マウス加齢性難聴のモデル確立これまでのショウジョウバエの解析結果を受けて、マウス内耳有毛細胞における生存維持メカニズムの解明を期待した。そこで、ebiのヒトホモログであるTBL1に対するドミナントネガティブ体を作成して、感覚神経細胞で発現するMath1エンハンサーにつないだコンストラクトを持つトランスジェニックマウス(Tgマウス)を作成した(理化学研究所との共同研究)。本年度は、このTgマウスの内耳有毛細胞における発現を確認している。今後は、これらの成果に基づいて、加齢性難聴疾患の発症メカニズムの解明を行いたい。
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ページ: 1355-1364
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