変異型カルボキシペプチダーゼY(CPY*)は小胞体品質管理により小胞体に留まり、小胞体関連分解(ERAD)を受ける異常分泌タンパク質のモデル基質である。CPY*に正常型の分泌タンパク質インベルターゼを融合させたCPY*-InvはERADを逃れ、ゴルジ体以降の分泌経路に入り、最終的に液胞で分解を受けた。小胞体-ゴルジ体間の小胞輸送を阻害したところ、CPY*-InvはERADで分解された。このことはCPY*-Invは異常タンパク質としての性質は保持しているが、効率よくゴルジ体以降に輸送されることを示している。さらにインベルターゼの小胞輸送に関わるレセプタータンパク質を欠損させることによりCPY*-lnvの選択的な輸送を阻害すると、CPY*-InvはERADで分解された。これらの結果より、小胞体ルーメンにおいて異常分泌タンパク質のERADと小胞への取り込みは競合していると結論した。この競合は分泌タンパク質の熱力学的安定性に依存していることが推定された。そこで、異常な立体構造を持つがERADを回避するCPYの変異体を取得することにより、タンパク質の熱力学的安定性とERAD/小胞輸送の関係を解析することとした。255番目のグリシン残基がバリンに置換したCPYは一部がERADをバイパスし、ゴルジ体へ到達し最終的に液胞で分解された。今後、この変異体と野生型CPY、CPY*の輸送及び分解を詳細に解析するとともに、それらの熱力学的安定を解析し、タンパク質の熱力学的安定性とERAD/小胞輸送の関係を議論する。
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