近年、多くのコンフォメーショナル病の発症メカニズムの一つとして、小胞体ストレスの関与が明らかになっている。しかし、小胞体の品質管理がどの様な分子機構によるかは不明な点が多く、現在最も注目されている研究対象の一つである。合成途上で相当な割合で生じる小胞体不良タンパク質は、小胞体シャペロン分子の発現誘導を介してリフォールディングされるか、あるいは小胞体関連分解(ER-associated degradation)により小胞体内腔から排除されなければならない。しかし、これらの小胞体品質管理機構が何らかの原因により破綻すると、細胞機能異常やアポトーシスによる疾患発症につながる。その具体的な例として、我々はこれまでの研究により、細胞質内異常タンパク質の蓄積が小胞体ストレスを惹起し、アポトーシスを誘導することを明らかにしてきた。すなわち、ポリグルタミン病や筋萎縮性側索硬化症では、細胞質内に蓄積した疾患原因異常タンパク質がERAD機能を直接阻害し、その下流でストレス応答性MAPキナーゼ(ASK1-JNK)経路の活性化を介した小胞体ストレス誘導性アポトーシスが誘導されること示してきた。平成20年度は、小胞体品質管理機構の中でも特に未解明なERAD分子機構に着目し、その詳細を明らかにすることで、小胞体ストレス下にある細胞の機能回復を目指した。具体的には、細胞質内異常タンパク質がDerlin-1の機能を抑制するメカニズムを解析する中で、ERAD以外の新規機能として、小胞体ストレス時にトランスロコン(Sec61)を介した小胞体内腔へのアミノ酸輸送をDerlin-1が抑制するという現象を見いだした。この機能はDerlinファミリーに共通していたが、そのメカニズムについては未だ不明であり、今後は小胞体膜上で翻訳途中の未完成ペプチドが翻訳時分解経路へと転移される機構およびそれに関わる分子を明らかにする。
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