近年、多くのコンフォメーショナル病(とくに神経変性疾患)において小胞体ストレスの関与が示されており、小胞体品質管理機構を明らかにすることは、様々な疾患の病態分子機構の解明に繋がり意義は大きい。申請者はこれまでに、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態分子メカニズムに関する研究から、細胞質内に蓄積した疾患原因タンパク質が特異的に結合する標的分子として、小胞体膜貫通型タンパク質Derlin-1を同定し、さらにDerlin-1の獲得性機能異常により小胞体ストレスが惹起され、神経細胞死が誘導されることを示している。これまでDerlin-1については、小胞体品質管理に関わることが示されているものの、この分子がどのように機能しているかは不明であった。そこで本研究では、ALS病態において変異型SOD1と結合することによりDerlin-1が新たに獲得した機能異常を解析することにより、本来持っている生理的機能を逆行性に明らかにすることを試みた。その結果、Derlin-1は新規小胞体品質管理システムに関与することを示唆する結果を得た。すなわち、小胞体ストレス下においては、小胞体内腔の不良タンパク質蓄積を軽減させるために、シグナル配列または膜貫通領域をもつタンパク質のSec61トランスロコンを介した小胞体への輸送が阻害され、細胞質内プロテアソーム系で分解される。変異型SOD1-Derlin-1結合は、この「タンパク質の翻訳時小胞体輸送阻害:ER-translocational attenuation」を介した新規小胞体品質管理機構を阻害する。生体内の生理的状況で、この新規小胞体品質管理機構がどのようなメカニズムでどのように機能しているかは不明で、今後の研究課題であるある。
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