研究概要 |
近年、アルツハイマー病、パーキンソン病、ポリグルタミン(PolyQ)病など多くの神経変性疾患において、タンパク質のミスフォールディング・凝集が神経変性を引き起こすという共通の発症分子メカニズムが考えられるようになった。研究代表者らはこれまで多様な神経変性疾患に対する共通の治療法として、タンパク質のミスフォールディング・凝集を防ぐ分子シャペロン群の発現を制御する熱ショック転写因子(HSF)の活性化に着目し、HSF活性化剤である17-AAGが内在性分子シャペロン遺伝子群の発現を誘導し、PolyQ病モデルショウジョウバエの凝集体形成・神経変性を抑制することを見出した(FEBS Lett, 2005、 J Biol Chem, 2008)。 今年度は、ミスフォールドタンパク質蓄積に対するHSFスプライシングの意義を解明するために、様々なHSFスプライシングアイソフォームHSFa-dを発現するトランスジェニックショウジョウバエを作成し、PolyQ病モデルショウジョウバエの凝集体形成・複眼変性に対する影響を検討した。その結果、驚いたことに、HSFa-dいずれの発現も複眼変性を増悪させることが明らかになった。ショウジョウバエ複眼原基の免疫染色を行ったところ、この時の凝集体についても増加していることを確認した。さらにこの時に神経変性抑制効果のあるHsp70、Hsp40などの発現誘導は認められず、これらとは異なる遺伝子を発現誘導して、神経変性を増要させていると考えられた。以上の結果から、薬剤による活性化と遺伝子発現では、HSFが発現誘導する標的遺伝子群が異なる可能性が考えられた。
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