本研究では、プリオン病の病態解明のためのモデル生物として優れている出芽酵母を使い、酵母プリオン[PSI+]の系を用いることで、酵母プリオン蛋白質Sup35断片(SupNM)の凝集体の性質とプリオン株の表現型の相関関係を明らかにすることを目的とした。 温度によってSup35NMの会合状態が大きく異なることが分かった。37℃ではSup35NMは単量体(モノマー)であるのに対し、4℃ではX線の散乱強度が増大し、Sup35NMが会合してオリゴマーを形成していることを明らかにした。また、Sup35NMのオリゴマー形成は温度変化に対して可逆的であることが分かった。 さらに、10~37℃でオリゴマーを経由せずに生成したSup35NMアミロイドは感染性の低いプリオン株を導くのに対して、4~9℃でオリゴマーを経て生成したSup35NMアミロイドは、感染性の高いプリオン株を導くことを見いだした。 オリゴマー形成にかかわるアミノ酸を特定するためにSup35NM変異体を作製し、X線小角散乱で検討した。低温下で生成するSup35NMアミロイドのコア領域は、Sup35NMタンパク質におけるプリオンドメイン(1~123番目のアミノ酸)の最初の35個のアミノ酸であることが知られているが、X線散乱強度の測定から、アミロイド生成途中のオリゴマー形成では、最初の約100個のアミノ酸が関与していることを明らかにした。 次に、その100個のアミノ酸の中で、どのアミノ酸が最初にオリゴマー形成を誘導するかを、Sup35NMタンパク質のいくつかのアミノ酸を蛍光分子であるピレンで修飾し、そのエキシマー蛍光の強度から検討した。その結果、Sup35NMタンパク質におけるプリオンドメインの89~108番目のアミノ酸領域が最初に会合することによってオリゴマー形成が開始することが明らかになった。
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