研究概要 |
Wnt/β-cateninシグナル伝達経路は進化上広く保存されており、発生や形態形成など多くの生命現象で重要な役割を果たしているとともに、癌をはじめとした様々な疾患の発症に深く関わっている。しかし、免疫細胞においてWnt/β-cateninシグナルは、T細胞やB細胞の初期分化に関与することが分かってはいるが、末梢T細胞における役割や免疫疾患発症への関与についてはほとんど解析がなされてない。そこで本年は、末梢T細胞応答性の制御におけるWnt/β-cateninシグナルの役割について解析を行った。 まず、ヘルパーT(Th)細胞サブセット(Th1, Th2, Th17, iTreg)間におけるβ-cateninシグナル活性化状態の違いについてβ-cateninシグナル標的分子の発現を指標に検討を行い、β-cateninシグナルが、Th17細胞で特異的に活性化してる可能性を見いだした。現在、入手したWnt/β-cateninシグナルレポータートランスジェニックマウスを用いて、Th17細胞特異的β-cateninシグナルの活性化を確認している。 また、β-cateninシグナルの活性化因子のWnt(Wnt1, Wnt3a, Wnt4)がTh17細胞で高発現していることが分かった。Th17細胞は、炎症性疾患の発症に関与するThサブセットであることから、Wnt/β-cateninシグナル活性化が炎症反応に何らかの役割を担っている可能性が示唆された。これらの新知見は、炎症疾患発症の分子機構を理解し、新しい治療法を考える上で極めて有用である。
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