免疫系における自己と非自己のモデルとして古くから研究されている胸腺細胞の正と負の選択機構では、TCRと自己抗原との反応性により細胞の生と死の運命が決定されると考えられている。しかしながら核内でTCRシグナルを感知し、細胞運命決定機構に変換する分子機構は全く不明である。本研究課題では胸腺細胞のヘルパー/キラーヘの系列決定が同様にTCRシグナルにより制御されると仮定し、ヘルパー/キラー系列決定機構に重要な役割を果たすThPOKサイレンサーの機能制御を解明することで、TCRシグナルにより制御される細胞運命決定機構の解明を目的としている。従って本年度はThPOKサイレンサーがTCRシグナルにより制御されているかどうかを明らかにすることを目的に研究を実施した。その結果、ThPOK転写因子自身がCd4サイレンサーとThPOKサイレンサーを直接抑制することで、自分自身の発現を維持・増強するフィードフォワード制御ループが形成されることを発見した。またThPOKサイレンサーのコピー数を増加させることによってサイレンサーの機能を増強したマウスを作製した。その結果、ThPOKサイレンサーの機能解除によるThPOKの発現誘導にMHCクラスII拘束性のTCRシグナルが必須である知見を得ることが出来、TCR下流でThPOKサイレンサーが制御されることを支持する結果を得た。このような胸腺細胞運命決定の分子機構の解明は、今後自己と非自己の識別機構の解明に繋がる研究成果といえ、その一部を米国の科学雑誌『Nature Immunology』に発表した。
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