申請者は、抗原受容体遺伝子再構成の分子機構に関して研究を行ない、E2A転写因子が組換え部位に直接結合し、ヒストンアセチル化を上昇させ組換えを誘導することを見出した。さらに片方の染色体で機能的な組換えが成功し負の抑制シグナルが伝達されると、E2Aの抑制因子であるId3が誘導され、E2Aが組換え部位から解離することによってもう一方のアレルでの組換えが抑制されること(対立遺伝子排除)を明らかにした。対立遺伝子排除は1つのリンパ球が単一の抗原にのみ反応することを保証する機構であり、その破綻は自己免疫疾患の発症にもつながると考えられる。しかしながら対立遺伝子排除の成立に必須な分子はリンパ球分化にも必須であるため、対立遺伝子排除が破綻した細胞は分化が停止してしまい、その生理的意義についてはほとんど解明されていない。そこで本研究では、E2Aを過剰発現させることで対立遺伝子排除が破綻するか解析し、その生理的意義について解明することを目的とする。 機能的な組換えが成功し、さらなる組換えが抑制される毅階の細胞でE2Aを過剰発現させると組換えを誘導することができた。このE2A過剰発現系は、E2Aをエストロゲンレセプターの融合蛋白として発現させ、40HTによって-過性に活性化誘導するもので、細胞は分化停止を免れることから、対立遺伝子排除の生理的意義の解析が可能であると考えられた。そこでE2Aによって、機能的な抗原受容体を複数細胞表面に発現しうる細胞が誘導されるか検討したところ、意外にもそのような細胞はほとんど検出できなかった。一方、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤TSAの存在下でE2Aの過剰発現を行なうと、TSA非存在下に比べて顕著に組換えが促進されたことから、このような状況下で蛋白発現が誘導されないかさらに解析を進めている。また上記の結果は、対立遺伝子排除にはDNAの組換えレベルでの制御に加えて、蛋白の発現レベルでも制御が存在することを示唆するものであるため、どのような分子が関与するか併せて検討を行なっている。
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