研究課題
抗原受容体遺伝子の再構成は、通常片方の染色体に限って起こることが知られており、対立遺伝子排除と呼ばれている。これはクローン選択説の基盤であり、その破綻は免疫自己の形成異常につながると考えられるが、その分子機構については明らかでなかった。我々は、多くの抗原受容体遺伝子の転写制御に関与するbHLH転写因子E2Aに着目して解析を行ない、E2AがT細胞受容体(TCR)β遺伝子の組換え部位に直接結合し、ヒストンアセチル化を上昇させ組換えを誘導することを見出した。さらに、片方の染色体で機能的な再構成が成功し負の抑制シグナルが伝達されると、E2Aの抑制因子であるId3が誘導され、E2Aが組換え部位から解離することによってもう一方の染色体での再構成が抑制されることを見出し、これが対立遺伝子排除の鍵となる機構であることを明らかにした。一方、近年、遺伝子座の短縮や伸展といった染色体ダイナミクスが転写や組換えに重要であることが明らかにされつつある。そこで本研究では、E2Aがヒストンアセチル化に代表されるエピジェネティクスと、染色体ダイナミクスをどのように制御しているか明らかにすることを目的として、3次元構造の維持された核内で染色体領域を可視化する3D-FISHによりTCRβ遺伝子座の伸縮状態を解析した。その結果、再構成が起きる段階では上流のV領域と下流のD-J領域が接近し、再構成が終了し対立遺伝子排除が成立する段階で両領域が離れることがわかった。さらに再構成が抑制されている細胞にE2Aを過剰発現させたところ、V、DJ領域の接近がみとめられるとともに再構成が新たに誘導された。これらの結果は、E2Aがエピジェネティクスの変化に加えて、遺伝子座の短縮・伸展といった染色体ダイナミクスにも関与し、さらに両者を有機的に結びつけている可能性を示唆するものである。
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Mol Cell Biol 29
ページ: 3754-3769