メリステム相転換の代表例である花成を制御する最も重要な外的要因の一つが光であり、その情報は主に植物の主要な光受容体であるフィトクロムによって捉えられる。フィトクロム蛋白質は、光受容に働くN末端領域と、二量体化に働きキナーゼドメインを持つC末端領域からなる。従来、フィトクロムはC末端領域内のキナーゼ活性により下流にシグナルを伝達すると信じられてきた。しかし、我々の最近の研究により、フィトクロムの最も主要な分子種であるphyBが、C末端領域からではなくN末端領域からシグナルを発信することが証明され、そのシグナル伝達機構を一から見直す必要が生じた。本研究では、順遺伝学的解析を大規模に行うことにより、phyB N末端領域からの未知のシグナル伝達経路に特異的に関わる新奇下流因子の同定を進める。 本研究ではまず、順遺伝学を進める上での最大の障壁である遺伝子機能冗長性の問題を克服するために、以下の3つの工夫を凝らした新たな変異体スクリーニングを試みた。1) フィトクロムと重複した機能を持つ青色光受容体クリプトクロムの全分子種を欠くシロイヌナズナのcry1 cry2 phy B三重変異体背景にて、phyB N末端領域を過剰発現させ、その形質転換植物を親株として用いることにより、僅かな表現型をできる限り誇張して変異体の単離を容易にする。2) さらに、T-DNAタギング法を用いることで、僅かな表現型しか持たない変異体の原因遺伝子クローニングを容易にする。3) 形質転換植物をタギングする際に問題となる、導入遺伝子のサイレンシングを抑える。今年度は、上記の方法でT-DNAタギング系統を約2万系統作製し、期待通り導入遺伝子のサイレンシングが抑えられることを確認した。
|