高等植物の器官形成にはDNA複製と細胞分裂が交互に起きる"細胞分裂周期(mitotic cell cycle)"と、細胞分裂を伴わずDNA複製のみが繰り返される"核内倍加周期(endoreduplication cycle)"が時空間的に正しく進行することが重要である。いったん細胞分裂周期から核内倍加周期に移行した細胞は通常分化の道をたどり、再分裂しない。このため核内倍加周期への移行のタイミングを正しく制御することが植物の発生過程における細胞分裂と分化の協調的制御の重要な鍵となると考えられるが、これらの分子実体については未解明な点が多い。本研究ではシロイナズナのメリステムで細胞分裂周期を促進し、核内倍加周期を抑制する分子機構の解明を目指している。今年度は最近我々が単離した4系統の新規変異体high ploidy 1-4(hip1-4)の詳細な表現型解析を行った。今年度行った解析から、異常な核内倍加の進行が帥変異体の根端や茎頂メリステムで起きること、またそれに伴い全てのhip変異体のメリステムが著しく縮小することを見いだした。これらの結果からHIP遺伝子産物が細胞分裂周期の正常な終了及び核内倍加の正常な開始と終了といった関連する複数の過程に関与すること、またこれらの制御を通してメリステムの形成、維持に重要な役割を果たすことが示唆された。さらにポジショナルクローニングによってhip2変異体の原因遺伝子を同定し、HIP2遺伝子がこれまでに植物では報告されていない新規タンパク質をコードすることを明らかにした。これらの成果は植物のメリステムで細胞分裂周期を促進し、核内倍加周期を抑制するシグナルネットワークを解明していく上で、非常に重要な知見である。
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