放射光X線または実験室型X線を光源とした高分解能X線顕微鏡を用いて、マウス大脳皮質カラム内のニューロン及びシナプス構造の可視化を行った。米国カリフォルニア州バークレーにあるAdvanced Light Sourceの放射光ビームラインBL6.1.2に設置されている結像型軟X線顕微鏡において、鉛染色を主とした大脳皮質の超薄切片(厚さ:200nm)を用いた観察を行ったところ、シナプスを含む細胞小器官を同定することが可能であった。今回のX線顕微鏡の空間分解能は25nmであり、シナプスを解像するのに十分な性能を持つことが示された。また、国内の大型放射光施設であるSPring8のビームラインBL47XUにおいて、結像型硬X線位相顕微鏡を構築し、直径50Fmのロッド状の神経組織のCT撮影を行った。ゼルニケ型の位相コントラストにより高感度な撮像が可能になり、空間分解能60nmで神経組織の3次元画像を取得することに成功した。また、ベイズ統計を基礎とした新たなX線CTアルゴリズムを開発し、空間分解能や感度の上昇を含め、様々なノイズの低減が可能であることがシミュレーションレベルで判明した。今後、X線顕微鏡の光学系と検出器が高度化するに従い、より高い空間分解能で3次元微細構造をX線CTを用いて解析することが実現できると考えられる。これは、シナプスが観察できる分解能で神経組織の3次元構造を薄切することなしに再構成することができる可能性を示唆している。同時に、本研究手法はにより、神経回路の配線を追跡することが可能となれば、神経ネットワークに基づく脳高次機能を解明する糸口となって、複雑な脳機能を考察する上で重要な挽点を提供することが期待される。
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