研究概要 |
複数の主体間の共感の問題をニューロエコノミックス的に考えていくために、まず本年はその基礎として個人レベルにおける情動・感情と理性の関連性を脳科学的に研究した。研究は次の2方向から行われた。 (1)大きな方法論的フレームワークを明らかにするために、先行研究を調べてその含意を批判的に検討した。特にDamasio(1994,1999,2003)の批判的考察が大きなウエイトを占めた。またこの考察により、従来の経済学が情動・感情を理性に対する単なる「ノイズ」と考えてきたことに対して、新たな代替的理解を提示することができた。以下に示す第1の研究論文がその1つの成果である。また第2の論文では、その方法論を具体的に食の危機の問題に対して応用して、その理論的有効性を試す思考実験を行った。 (2)実際にfNIRSという先端的機器を購入しそれを使用して、主に前頭葉における脳血流の変化を計測しながら、情動・感情および理性との関連性を明らかにする臨床的実験を進めた。当初計画のfMRIに替えてfNIRSを採用するに当たっては、研究上の有効性とコストパフォーマンスを綿密に検討した。またfNIRSの理工学的知識と技術をマスターする過程で、青山学院大学理工学部の井出英人教授(研究協力者)から多大なご支援を得た。以下で示す学会発表は、井出研究室の浅野裕俊助手がリーダーシップを発揮して共同研究として行つたもので、議論を繰り返し相互理解を作り上げた1つの成果である。現在われわれはこうした基礎準備を出発点として、さらにいくつもの臨床的実験をfNIRSを用いて行っている。そのねらいは臨床的実験によつて情動・感情と理性の間の関連性を実証的に明らかにし、上述の方法論的なフレームワークを検証しさらに深化させようとするものである。これらの具体的成果は今後精力的にまとめて、論文等による発表という形をめざしたいと考えている。
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