研究概要 |
本研究では、社会的文脈の中での経済主体の認知・感情の変化が、経済的意思決定にどのような変化をもたらすのかを脳科学的な実験により考察しようとする。現在、得られた結論をいくつかの論文にまとめる努力をしている。以下表示の英文論文は3月末までに完成した。さらに修正して研究誌への投稿を計画している。他の英文論文も近く完成させたい。 完成した論文の内容をまとめてみる。ここでは脳波計を用いてリスクと曖昧性の実験を実施してCNV脳波の変化を計測し、加算平均と主成分分析によって得た内容を考察した。海外の研究がもっぱらfMRIを用いたものだったのに対して、われわれは別の実験方法によって見えてくる新たな知見を明らかにした。ここで得られた結論の最大のものは、リスク問題の文脈的設定を変化させることで、リスク認知が変化しやがて暖昧性回避の知覚が生じてくることを、CNV脳波の変化を見ながら説明できたことである。これはHsu(2005), Huettel(2006), Bach (2009)の先行研究と合わせると、リスクと瞹昧性が人間の知覚や認知のなかで双方向的に変換しあうことを示しており、マクロ経済学的にも大きな含意を有している。新古典派経済学は、経済主体が不確実性を主観的なリスクの問題と理解し、その上で期待利潤最大化をめざして合理的に意思決定すると想定してきた。しかしナイトやケインズが主張したように、主観的にも確率現象として認知することが不可能な真の不確実性は、マクロ経済に大きな影響をもたらしうる。従来の経済学はこうした問題を軽視してきた。われわれの研究は従来の方法論を批判し、新たな実験機器を用いてリスクと瞹昧性(=真の不確実性)が人間認知の中で文脈依存的に相互変換されることを明らかにした。これはニューロエコノミックスだけでなくマクロ経済学にとっても、新たな理論的分野を切り開くものとなっている。
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