医薬品業界を取り巻く様々な環境が劇的変化を遂げている中、市場の牽引役が、いわゆるブロックバスター型薬剤から、少患者数に対する高い未充足ニーズの存在する疾患の治療薬へ移り始めており、新たな市場が形成され始めている。なかでも、一疾病あたりの国内患者数が5万人以下と定められている希少疾病医薬品(Orphan Drug(以下ODと示す))については、米国をはじめとした各国で市場開拓が進んでいる。 日本でも、ここ数年でOD開発の社会的意義及び経済波及効果については認知されつつあり、複数のベンチャー企業が参入している。OD市場は国内において創出されつつおり、またその課題も経済市場レベルへと移行しつつある。 本研究では、OD分野からさらに焦点を絞った、超希少疾病医薬品(Ultra Orphan Drug(以下UODとする))というまったく新しい分野に着目し、その市場形成の可能性および国内における経済波及効果について考察することを目的とする。 UODとは、通常"OD"よりさらに患者数が少ない難病を指すが、定義もいまだ確立されていない学術的にも未開拓分野である。現在の定義上はODに包含されるが、個々の疾病患者数はごく少数であるため、ODと同様のインセンティブが有効に働くとは言い切れない。しかし、UOD総体としては多数の患者が存在することが予想されるため、医療・社会的ニーズは非常に高い。 UODという概念は、これから来たるべき個のゲノム解読による疾患細分化の概念を先取りしたものであると考えることもでき、今後着目されることは間違いない。つまりUODは、ファーマコゲノミクスによる広義の個別化医療の次のステージに控える、真の個の医療への重要な布石と捉えることができる。 従って、いまだ着目する者がいないUOD分野への早期着手により、わが国が世界の医療をリードする仕組みづくりが可能となり、ベンチャー企業における知的成果や大学発知的成果等を活かした市場の創造といった波及効果も期待される。 本研究は研究期間を通じて、1) UOD概念の確立、2) 市場創造による経済波及効果の予測、3) 知財戦略までを念頭においたリサーチデザインの提案、4) UOD市場に対する(大学発)ベンチャー企業参入の環境整備について、臨床医を含む医薬系研究者や企業関係者らの協力を得ながら、世界に先駆けて設計・提案することを目的とする。
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