研究概要 |
(1) 分子コンピュータRTRACSの動作シミュレータの開発 : RTRACSは、AND論理演算を例にとると10種類のオリゴヌクレオチドと3種類の酵素が協調して働く複雑な系である。このような多成分系の反応条件の最適化問題を効率よく解くには、シミュレーションは非常によい手段である。オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションは、1本鎖状態と2本鎖状態の間の遷移だけを考慮する2状態モデルで近似した。また、酵素反応はミカエリス=メンテン型の式にしたがうと仮定した。そのほか、酵素の反応速度定数などは文献値を使用した。このように厳密な仮定に基づかないシミュレーションであるが、実験結果を非常にうまく説明できることがわかった。この成果はすでにPhysical Review E誌に掲載された。 (2) リボソームの均一化 : 研究申請時、研究に使用していたリボソームは多重膜(マルチラメラ)であった。ドラッグデリバリーを考えた場合、外部から情報を内部に取り込むにも、内部の薬剤を外部に放出するにも、リボソームは一枚膜である事が望ましい。そこで従来凍結乾燥法で作っていたリボソームの調製法を変更し、ジャイアントマルチラメラリポソームを効率よく作れるW/Oエマルション遠心沈降法を適用した。この方法で調製したリボソームの内部にAND演算型RTRACSを封入したところ、2種類の入力RNAが存在する(1, 1)条件でのみジャイアントユニラメラリポソーム内部で出力RNAが生成することを、蛍光顕微鏡観察で観測することに成功した。またフローサイトメトリーで系全体を統計的に解析することができた。 (3) モレキュラーアンブレラの合成 : 本分子は、4つの両親媒性分子をリンカーで結合した構造であるが、当然合成中間体・最終生成物ともに両親媒性を示す。両親媒性分子は水相および有機相ともに親和性があるため、抽出操作による精製が困難である。各ステップで生成物の性質にあわせて精製方法を検討しながら合成を進め、最終的に目的化合物を得ることに成功した。
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