本研究では、分子コンピュータとリボソームを融合した「考える」薬物送達システム:インテリジェントDDSの実現を目指している。平成21年度の計画は、(1)高品質リボソーム調製法の導入、(2)分子アンブレラ-DNA複合分子の導入、(3)膜を介した人工情報伝達システムの開発、であった。 (1) 遠心沈降法という、w/oエマルジョンを緩衝液中に落とし込む方法で、ジャイアントユニラメラリポソームを調製した。その内水相に自律型分子コンピュータRTRACSを封入し、サイズ分布が小さく、より細胞に近い構造を持つリボソーム中で、分子コンピュータが動作することを、フローサイトメーターで検出に成功した。 (2) 新規分子アンブレラ-DNA複合分子を設計し、実際に合成した。合成の簡便化と収率の向上を達成するために、分子の脂溶性を向上するジメトキシトリチル基で、分子アンブレラのコール酸部分の水酸基を保護した。この工夫により、合成的に扱いにくい両親媒性分子である分子アンブレラの合成を簡便に行うことができた。また、その膜透過能を、分子ビーコンをプローブとして用いて、リアルタイムに蛍光検出した。その結果、驚くべきことに、分子アンブレラ-DNA複合分子は、相補的な配列を持つ31merのオリゴDNA鎖の膜透過を促進する性質を有することが分かった。この成果は、現在、投稿準備に入っている。 (3) 分子アンブレラは「物質」の膜透過を促進する。一方、細胞が行っているシグナル伝達システムに習う本系は、分子の構造変化を利用して情報を伝達する。平成21年度中に、標的分子の設計と合成ルートの検討、合成中間体の合成までを達成した。また、(2)との関連で、シグナル伝達能の評価系構築に必要な諸技術(リボソーム調製法・アガロースゲル濾過法・長時間の蛍光強度測定に必要なセル密閉器具の開発)の習得に成功している。
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