神経細胞の分化過程での多様な遺伝子発現を制御する分子メカニズムに関しては不明な点が多い。本研究は遺伝子発現制御における核内分子動態の役割を明らかにするため、新たな研究手法として1分子蛍光イメージング法を用いて転写因子CREBとその認識配列CRE(TGACGTCA)に着目して相互作用を可視化し定量的な計測から時空間的動態を解析した。CREBはもっとも研究されている転写因子の1つで、cAMPやカルシウムイオンの細胞内シグナルに応答して二量体を形成することでCRE配列に特異的に結合し遺伝子発現を制御することが知られている。神経系においては神経回路形成や海馬における長期記憶の形成に関与することが知られている。1分子のCREBを可視化するため大腸菌組換えタンパク質を精製し、蛍光ナノクリスタルQdotで標識した(Qdot-CREB)。この組換えタンパク質のCRE配列特異的な結合活性をゲルシフト法により調べた結果、これまでの報告と同様にコントロールとして用いた非認識配列である転写因子NFκBの認識配列(NFκB配列)に比べて明らかに高い結合性が観察された。そこで1分子レベルでの解析のためカバーガラス表面上にCRE配列またはNFκB配列を固定化しQdot-CREBとの相互作用を全反射顕微鏡を用いて調べた。その結果、Qdot-CREBはNFκB配列に比べてCRE配列により長い時間結合することが初めて明らかとなった。以上の結果から、CREBは弱い親和性でDNA鎖上を移動してCRE配列を探し、認識するとその場に長く結合して転写を誘導することが示唆される。
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