研究概要 |
平成22年度は,これまで作成した膜の磁気特性,すなわち異方的磁化率による回転トルクを考慮した3次元赤血球・流体連成解析モデルの妥当性検証と現象解明を目的として,数値解析とマイクロ流路を用いた実験をともに行い,単一赤血球レベルにおいて配向運動の定量的比較を行った.実験では,購入した強磁場発生装置に高速度カメラと光学系を用いて,一様強磁場中におけるマイクロ流路内の赤血球の流体運動,レーザを用いた蛍光温度測定,そして個々の赤血球の高空間・時間分解能測定が可能な計測装置を開発した.この装置を用いて,磁場強度0~10テスラの一様磁場内の赤血球運動を測定し,同条件で数値解析を行って比較検討を行った.その結果,数値解析により赤血球がその両凹円盤面を磁場方向に並行となるように配向する現象を精度良く再現出来ることが分かった.さらに,それぞれの磁場強度において,運動の加速度や速度などの定量的な比較においても,実験と数値解析は良好な一致を示し,数値解析モデルの妥当性を示した.本モデルは,赤血球膜を構成する各要素に膜状の脂質二重層と膜透過タンパクの磁気特性を組み込んだものである.したがって,赤血球の運動や形に依らず適用可能な物理特性を模擬したモデルであり,高い汎用性を有することから,本実験の妥当性確認により,種々の応用展開が期待される段階に達したと考えられる.また,さらなる応用展開として,実験と数値解析の結果を一致させることで,赤血球全体ならびに膜状の各要素の異方的磁化率を求めることが可能である.本実験結果を用いた場合,異方的磁化率はΔχ_<RBc>=2.2×10^<-26>m^3となり,他の文献値と良好な一致を示した.このことから,マイクロ流路を用いることで単一赤血球の磁気特性の計測について可能性を示すことができた.
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