本研究は、クロマチンを制御して遺伝子発現を調節できるDNA構造(非B型DNA構造:クロマチンモジュレーターと称す)を利用することにより、高効率・安定化した遺伝子発現強化機能を付与した「クロマチン改変動物」を創出することを目的とする。本年度は以下の研究を行った。 (1)人工ベントDNA配列(T20配列)によるPol II型転写活性の賦活化モデル動物の作製 平成21年度までに、T20配列(両端にloxP配列を付加)/β-actinプロモーター/EGFP発現ベクターを用いて、T20配列がマウスES細胞でもPol II型転写活性促進機能を発揮することを明らかにしてきた。そこで本年度は、シングルコピー導入ES細胞(T20/GFP株)と、それを元株とするΔT20/GFP株を作製し、qRT-PCRによりT20/GFP株でGFPの発現が大きく向上しているクローンを選定し、それらを用いてキメラマウスを作製した。 (2)ES細胞の分化過程における遺伝子座の核内配置の動態の解析 ES細胞や初期胚におけるクロマチンレベルでの転写制御について、細胞核高次構造の機能に着目し、染色体テリトリーと標的遺伝子座の動態について3D-FISH法により解析した。その結果、ES細胞の分化過程において、未分化マーカーであるOot3/4遺伝子座の移動はほとんどなく、一方、肝分化マーカーであるTdo2遺伝子座では分化に伴うループアウト現象が観察させるなど、クロマチン・染色体レベルでの遺伝子発現制御に関する解析モデルを確立した。 (3)ES細胞の分化過程におけるT20/GFP発現カセット挿入部位の核内配置の動態の解析 上記の3D-FISH法を用いて、T20/GFP発現カセットの挿入部位と遺伝子発現、遺伝子座の動態について解析した結果、分化状態や挿入部位(遺伝子領域、遺伝子間領域)にともない、発現レベルや遺伝子座の動態が変動する傾向が認められた。
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