まず組織分化決定後の形態形成が活発に行われる原腸陥入期の胚に対し標的既知化合物を添加した。そしてその表現型を解析することで、組織分化決定後の形態形成に影響を及ぼす標的分子の探索とその機能の解明を目的とし実験を行った。従来脊椎動物培養細胞等で用いられてきた標的既知小分子化合物11種を選定した。次に化合物濃度と添加時間、サンプリング時間などの条件を検討し、化合物添加胚を効率良く得る実験系を構築した。次に得られた形態形成に影響のあった異常胚の表現型を1細胞レベルで解析するために実体、および共焦点顕微鏡で胚の形態画像を取得し、観察した。組織分化の様子をWhole-mount in situ hybridization (WISH)法により確かめた。最終的に共焦点顕微鏡で得られた3D画像をもとにコンピュータグラフィック画像(CG画像)を作成し、細胞数、体積、表面積を測定した。11種類の化合物添加により、発生致死ではなく、また正常細胞とも異なる形態をもつ胚を5種得ることができた。このうち特にFGFR inhibitorの添加胚では、尾部表皮細胞が頭部表皮細胞に比べ大きくなる、神経管閉鎖が正常に行われないといった興味深い表現型が観察された。WISH法により表皮正中に発現する末梢神経マーカーは、FGFR inhibitor添加胚では発現したがパターンが乱れていた。このことは尾部表皮細胞は組織分化しながらも、細胞の配置は変異したということを示す。またCG画像からの定量的解析結果より、添加胚では尾部の表皮細胞数が極端に少ない一方、その体積のばらつきは大きくなっていることがわかった。このことから、尾部表皮細胞は配置だけでなく、細胞分裂にも変異が生じたものと考えられる。さらに得られた画像を3次元的にデータベースで表現するため3Dデータベース(3DPL)を開発し表現型の登録を行った。また、ホヤと化合物に関する1970年からの研究データ(800化合物)を網羅的にまとめ、知識集約型データベースACBDのプロトタイプを作成した。
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