我々が開発したMAGICAL法は、特殊な安定同位体標識を20通り行った蛋白試料を無細胞蛋白質合成系により調製し、それぞれの蛋白質に対して2次元HN(CO)/HN(CA)/H(N)CA/H(NCO)CA/H(N)CO/H(NCA)CO-TROSYを測定し、解析することで従来法に必要な濃度の1/10程度の極低濃度の目的蛋白質を用いて、より高分子量で不安定な蛋白質のNMRシグナルをも簡便に帰属可能にする方法である。昨年度までに、このMAGICAL法において、パルスプログラムの改良や標識方法の改良を行い、H(N)CA/H(NCO)CA-TROSYやH(NCA)CO-TROSYなどの測定感度を大幅に向上させることができるようになった。本年度は、改良MAGICAL法の応用として昨年度から続けてきた小胞体ストレスセンサー蛋白質であるIRE1p蛋白質のHNシグナルの帰属を完了させた。また、新たな解析対象の一つとして単量体では10μM程度しか溶解しない植物の光受容体フィトクロームのヒスチジンキナーゼ様ドメインを選び改良MAGICAL法を適用することで、ほぼすべてのHNシグナルの帰属を完了した。さらに、分子量が大きく溶解度も低いParamecium bursaria Chlorella virus 1 mRNA Capping Enzymeに改良MAGICAL法を適用したところ、この蛋白質は構造多型を持ちきわめてNMR解析が困難であるにもかかわらずほぼすべてのHNシグナルを帰属することができた。また、得られた帰属情報をもとに残余双極子法を適用したところ、この蛋白質は、基質の有りと無しとで極めて大きなドメイン配置の変化が起きることが明らかになった。以上のように改良MAGICAL法は、蛋白質NMRシグナルの帰属およびその応用に対する非常に強力なツールで有ることが明らかになった。
|