近年の血栓性疾患発症の増加傾向から、その治療ならびに予防は重要である。本研究では、微生物二次代謝産物から発見した血栓溶解促進物質マルホルミンの細胞内分子標的をケミカルバイオロジーアプローチによって明らかとし、また構造活性相関研究からマルホルミンをファーマコアとした新規血栓溶解剤の応用を目指す。以上の研究により、新しい作用機序を有した血栓溶解剤開発の分子基盤を創製する。 平成22年度は、in Vitro線溶活性評価系を用いた非天然型マルホルミンの構造活性相関を行なった。非天然型マルホルミンは2-クロロトリチルクロリド担体を用いた固相合成により作成した。天然型マルホルミンA1(MA1)の分子内ジスルフィド結合を還元した結果、血栓溶解促進活性は消失した。天然型MA1の構成アミノ酸をアラニンに置換した5種の誘導体の活性評価の結果、L-ValをL-Alaに置換した3-AlaMA_1が天然型MA_1と比較して約50%の活性を示したのに対し、他のアラニン誘導体は活性を示さなかった。天然型MA1内の疎水性トリペプチド(L-Val-D-Leu-L-Ile)をリジンに置換した3種の誘導体の活性評価の結果、いずれのリジン誘導体にも促進活性が見出せなかった。しかし、リジン側鎖のε-アミノ基をBoc基で保護したリジン誘導体には促進活性が検出された。同様に、疎水性トリペプチドをフェニルアラニンに置換した3種の誘導体からも促進活性が検出された。以上の結果から、MA1の活性発現には分子内ジスルフィド結合および疎水性側鎖の存在が重要なことがわかった。また、活性に依存しない細胞毒性の増強が確認された。これは、MA1による血栓溶解促進活性と細胞毒性が相互に依存せず、分割できる可能性を示した。今後、リジン誘導体を用いたマルホルミンアフィニティーカラムを作成し、細胞内分子標的の同定を進めていく。
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