本科研の最終年度として、引き続き、実践的な研究を行うと同時に、その成果の一部を書籍、論文などの形で発表した。その主な研究活動は以下の通りである。 (1)第5回アジア・アーツマネジメント会議を2011年1月19~20日にバンコクにおいて開催した。日本側から20名、タイ側から30名の参加者を得て、全部で11件の発表が行われた。都市におけるマイノリティの場(例えばスラムや日雇い労働者の生活空間)をアートによって外部へと解放(開放)する方法について、検討を行った。この会議はまた、3月にバンコクとジョグジャカルタにて行われた「アーツマネジメント」フォーラムへとつながった。また、第3回「アジア・アーツマネジメント会議」の記録集を刊行した。 (2)引き続き、沖縄市古座における米軍キャンプ周辺の政治地理的空間と文化の遭遇についての調査を行った。 (3)アートによる社会へのアクセス可能性を検討する、「アート&アクセス」というシンポジウムとパフォーマンス公演を開催した。これは、イタリアのボローニャにおける元ホームレスの仮面劇団の来日に合わせて企画されたものであり、演劇が社会的包摂に対して持ちえる意味についての議論が展開された。 (4)インドネシアのジョグジャカルタ市において、震災復興支援の継続プログラムとして、第2回「創造音楽祭」を2010年8月1日に開催した。これは、小学生や障害児の潜在的な能力を音楽やダンスを通して開花させるものであり、硬直化したカリキュラムへの批判でもあった。 以上のような実践的な研究を通して、アートのコミュニケーション力について、様々な角度からの検討が可能となった。特に、アジアの共助の思想と、ヨーロッパの社会的包摂の思想との接合の仕方についての考察を深めることができ、研究協力者である中川眞の著書『これからのアートマネジメント』(2011)にも結実した。
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