中米の現代および古代先住民集団の遺伝的多様性の解明を目的として、メキシコ中央高原に位置し紀元350-650年に繁栄したテオティワカン遺跡から出土した既存の(本研究開始段階でパイロットスタディー用に入手していた)古人骨試料(100余体の骨片・歯牙)よりDNAを抽出後、PCR法によりミトコンドリアDループ領域のDNAを増幅し、その全塩基配列を決定した。さらにそれらの塩基配列データをもとにして、メキシコの古代先住民の集団遺伝学的系統分析を行った。同遺跡の人骨試料については、これまでに我々の研究グループが経験している日本(縄文・弥生)や中国(股王朝)の試料に比べて、DNAの質的な劣化が強く、また未知の夾雑物が混入している状況もあり、その分析には予想以上に困難を極めた。そのため、DNAの抽出精製方法やPCRの条件などを再検討することにより、約20個体のDNA型判定を行うことができた。その結果、テオティワカン集団の個体の中に、コーカソイドにその起源を有すると考えられており、新大陸では北米の先住民に数パーセントの頻度で見られるに過ぎないハプログループXが僅かながら存在していることが明らかになった。これは古代の中米地域にアジアの系統の先住民が入り込んでいたことを示す画期的な知見であり、我々はこの事実を重要視し、新大陸先住民の動向に関する情報や研究データが揃っているカナダのブリティッシュコロンビア大学(人類学部門)の協力を得て、同大学における資料収集や情報交換を行った。平成21年度にはこれらのデータを基に、さらにメキシコ現代および古代民族の検体収集を行い研究を進めていく方針である。 (なお、平成20年度の繰越金の使用について、その多くを21年度の旅費として使用するという内容で承認を得たものであるが、21年度の初頭に新型インフルエンザの流行が起こり、予定していたメキシコ渡航の見込みが立たなかったこと、および本研究を行う上で重要なDNA解析用の機器(シーケンサー)の修理に予定外の出費が必要となったことから、やむを得ず機器の点検費および部品購入費として振り替えたことを申し添える。)
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