面不斉フェロセニルホスフィンppfaなどの不斉配位子に代表されるように、「面不斉」を有する化合物は効果的な不斉テンプレートであり、有用な不斉触媒・不斉試薬となることが知られている。このような面不斉化合物の有用性にもかかわらずその触媒的不斉合成の成功例は非常に少なく、未開拓な分野として残されている。この様な現状をふまえ本研究では、(1)面不斉メタロセン錯体の触媒的不斉合成法の開発、(2)開発した反応により得られる面不斉メタロセン類の応用、の2つを目的とする。初年度の研究では、(1)の目的について多角的に検討することから着手した。メタロセン基質としては、鉄などの後周期遷移金属種からジルコニウムなどの前周期遷移金属種までを取り扱うこととした。また、ルイス塩基性を有するホファメタロセンなどのヘテロメタロセン種も検討の対象とした。面不斉メタロセンの不斉合成法としては、不斉メタセシス反応を利用し、架橋メタロセンを閉環メタセシスにより構築する際に面性のキラリティーが制御できることを見出した。具体的には、「ラセミ体の速度論分割」により触媒的に光学活性面不斉フェロセンを得る手法を開発した。この反応は非常に高いエナンチオ選択性で進行するが、速度論分割では一方のエナンチオマーの収率は最高でも50%であり、また生成物と残留基質とを分離する必要がある。この点を改良すべく、「エナンチオ位置選択的反応によるプロキラルな基質の不斉非対称化」により光学活性面不斉メタロセンを得る反応も検討中であり、最高99%eeのエナンチオ選択性を達成している。
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