触媒的不斉反応研究の多くは、その初期概念である「不斉リガンド・触媒の合成→既知反応への適用」の短絡的な繰り返しである。本研究は触媒的不斉反応における新基本根幹概念となる動的構造多様性を発現する不斉触媒の創製を目指す先駆的研究である。低分子のオリゴアミド配位子と、高い配位数及び配位形式を取りうる希土類金属の組み合わせにより、ペプチド同様の剛直性及び柔軟性を有する適時構造変化能を発揮する触媒を創製できると考え研究に着手した。種々検討の結果、フェノール性水酸基を有するアミド配位子と希土類金属から形成される不斉触媒が、用いる希土類金属によって異なる光学特性を有する錯体を形成していることがCDスペクトルより明らかとなった。研究代表者が開発した4級炭素構築型触媒的不斉Mannich型反応において、この錯体の不斉触媒としての機能を精査したところ、高い触媒活性と立体選択性を発現することがわかった。さらに、希土類金属としてScあるいはErを用いた際にジアステレオ選択性が逆転することを突き止めた。この希土類金属/アミド配位子触媒系の動的構造多様性を本反応系において評価した。その結果、Er型触媒は反応系中において、Scの導入により動的構造変化を起こし、Sc型触媒へと変遷させることが可能であることがわかった。本実験系において不斉触媒の動的構造変化により、ジアステレオ選択性という触媒機能の変化を誘起することが実現された。構造変化はCDスペクトルにより追跡可能で、Er型触媒からSc型触媒への変遷がスペクトル的にも支持された。本現象は人工不斉触媒化学においては極めて希で、動的構造多様性触媒の一般化のための大きな第一歩であると考えられる。
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