20年度の研究では、病原体の感染に応答して生じる葉緑体ストロマでのCa^<2+>シグナルが、細胞質のCa^<2+>濃度変化が引き金になって引き起こされること、また、葉緑体チラコイド膜に局在するCASが過敏感細胞死の誘導に関わっていることを明らかにしていた。21年度の研究では、植物の感染防御応答におけるCASの役割をより詳細に解析し以下の新事実を明らかにした。 (1) 病原体の感染は、数十分で進行する気孔閉鎖、数時間後に見られるPR遺伝子群の発現誘導と、それに伴う病原体増殖の抑制、さらに数日後に見られる過敏感細胞死など、多彩な防御応答を引き起こす。今回、cas-1ノックアウト変異体で、これら多彩な防御応答が全て異常になることが明らかになった。葉緑体タンパク質CASは、何らかのシグナルを介して細胞質や核でおこる防御応答を制御していると考えられる。 (2) cas-1変異体で、エリシターが誘導する葉緑体Ca^<2+>シグナルが抑制されることを見いだした。上記(1)の発見とともに、葉緑体Ca^<2+>シグナルが、感染防御応答の誘導に関係していることが示唆された。 (3) CASを介して葉緑体から発信される防御応答シグナルを探るために、網羅的ホルモン解析を行った。その結果、エリシターによって誘導されるサリチル酸の蓄積がcas-1変異体で大きく抑制されている事がわかった。サリチル酸が、葉緑体による防御応答制御のキー分子である可能性が見えてきた。
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