我々が作製したナルディライジン欠損マウス(NRDc-/-)は、思いがけず低体温を呈し、寒冷暴露下(4℃)での体温恒常性が著しく損なわれていた(未発表)。体温恒常性は美しくデザインされた調節系の代表であり、本来哺乳動物の体温(核心温)は、外気温によらずほぼ一定に保たれる。寒冷暴露下の適応熱産生(非ふるえ熱産生)の中心と考えられているのは、褐色脂肪組織(BAT)におけるミトコンドリア脱共役タンパク質(UCP-1)によるプロトン勾配の熱への変換である。寒冷刺激は脳で察知され、交感神経活動の亢進を介してBATのβアドレナリン受容体を活性化し、転写コアクチベーターであるPGC-1αの作用を介して、UCP-1の遺伝子発現を誘導する。適応熱産生におけるこの経路の重要性は、上記遺伝子欠損マウスのいずれもが寒冷負荷で体温の低下を認めることからも明らかである。これらの欠損マウスでは、一律にBATにおける脂肪蓄積の増加と、それに伴うミトコンドリア量の低下を認め、BATがいわゆる低活性状態を呈する。それに対して、NRDc-/-では著明な体温低下を認めるにもかかわらず、BATはミトコンドリアで充満し、反対に高活性状態を呈している。この事実は、NRDcが体温恒常性の維持に必須であること、さらに未知の熱産生機構の存在を示唆するものと考えられる。これまでの研究で、野生型マウスのBATでは寒冷曝露後にPGC-1αおよびUCP-1の発現上昇が見られたが、NRDc-/-のBATではその上昇が見られなかった。今後はNRDc-/-ではなぜPGC-1αとUCP-1の発現上昇が起こらないのかを明らかにしていく予定である。
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