研究概要 |
マウス生殖系列細胞の成立に伴い、始原生殖細胞(primordial germ cells,PGC)の前駆細胞集団では、未分化性の維持に関連する遺伝子群の再活性化が知られている。一般的に、この生殖系列細胞の成立は、BMPシグナルに依存した分子カスケードによりPrdmlが活性化されることに始まると考えられている。しかし、Dullard遺伝子の欠損(Dullard^<-/->)マウス胚での解析から、BMPシグナルのみではなく、WNTシグナルも生殖系列細胞の形成にかかわっていることを明らかにした。Dullard^<-/->マウス胚では、Prdml陽性の生殖前駆細胞集団による細胞塊が形成されず、その結果、PGCが欠損する。このDullard^<-/->マウス胚での生殖細胞形成不全は、顕著なBMPシグナルの減衰は認められず、また、Bmp4欠損マウスとの交配実験からも、生殖細胞形成における遺伝学的相関は見られなかった。一方、Dullard^<-/->マウス胚では、canonical Wntシグナルの下流遺伝子群の発現が低下していた。Dullard^<-/->マウス胚と同様にWnt3欠損マウスにおいても、PGCが形成されないことから、Wntシグナルの活性がPGC形成に必須であることが示唆された。さらに、DullardのミュータントマウスとWnt3のミュータントマウスとの交配実験より、両遺伝子のヘテロマウス胚において形成される生殖細胞数の減少が観察されたことから、WNT3シグナルが生殖細胞形成に重要な役割を担っていることが明らかとなった。興味深いことに、Dullard^<-/->マウス胚からWnt3遺伝子アリルを1本除いた場合(Dullard^<-/->;Wnt3^<+/->)、生殖細胞欠損の表現型が一部レスキューされ、少数ながらPGCが形成された。Dullard^<-/->胚においてWnt3の発現を確認したところ、その発現は上昇していた。また、Dullard^<-/->;Wnt3^<+/->マウス胚では、Dullard^<-/->胚に比べ、Wnt3の発現が減少し、一方、全体のWntシグナル活性は上昇していた。
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