近年樹立された体細胞由来の多能性幹細胞、いわゆるinduced pluripotent stem(iPS)細胞は損傷した細胞・組織を修復する再生医療への応用が期待されている。iPS細胞を医療応用するには、iPS細胞を目的の細胞へ選択的に分化誘導する技術の確立が必要である。我々はこれまでにアデノウイルス(Ad)ベクターを用いてマナス胚性幹(ES)細胞や間葉系幹細胞へ効率良く分化関連遺伝子を導入することにより、目的の細胞への高効率分化誘導に成功している。本研究では、マウスiPS細胞への遺伝子導入法を確立するとともに脂肪細胞・骨芽細胞への高効率分化誘導を試みた。プロモーターの異なる四種類のLacZ発現Adベクターを用いて検討した結果、マウスiPS細胞およびiPS-EBへの高効率遺伝子導入は、CA (cytomegalovirus enhancer/β-actin promoter)プロモーターを有するAdベクターにより達成できることが明らかとなった。なお、Adベクターを用いた遺伝子導入はマウスiPS細胞の未分化性に影響を与えていなかった。次にCAプロモーターを有するAdベクターを用いてPPARγ遺伝子、Runx2遺伝子を導入したところ、従来の液性因子のみを用いる分化誘導法よりも効率良く脂肪細胞、骨芽細胞に分化することが明らかとなった。これらの結果から、我々のAdベクターによる遺伝子導入システムは、iPS細胞を含む幹細胞の効率的な分化誘導に有用であることが示された。
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