研究課題
本研究の目的は、意識や内省と呼ばれる自身の心の内部への能動的アクセスの発生過程を、広範な種比較と発達比較により実証的に検討することを通じて、読心あるいは心の理論などと呼ばれる他者理解のメカニズムを明らかにすることである。平成20年度には、以下のような成果を得た。藤田は、フサオマキザルは自身の物理的刺激の記憶痕跡の強度をモニターでき、メタ記憶を持つが、その内容の詳細を認識することは難しいこと、イヌは1度だけ生じた事象を、後刻エピソード的に想起できること、ハトは自身の解答の自信度を認識して行動を調整できること等を明らかにした。板倉は、アイトラッカーを用いて、成人および乳児における他者の行為の知覚の際の視線を計測し、刺激として呈示されたエージェントの条件に応じて、行為に先んじた予測的視線が異なることを見出した。また、幼児においては、抑制機能がソースモニタリングの発達に重要な役割を果たしている可能性を示した。明和は、他者理解能力の基盤と考えられる他者との行為共有(模倣)の発達的・進化的起源を検討した。新生児に母親の声と未知女性の声を提示すると、ヒトでは母親の声に対して口唇部の動きが増加したが、チンパンジーでは明瞭な反応は見られなかった。平田は、チンパンジーを対象として、コンピュータ制御のタッチパネルを用いた認知課題およびアイトラッカーを用いた視線計測に関する研究手法を確立させた。タッチパネル認知課題においても、アイトラッカーによる視線計測においても、6個体のチンパンジーでデータ収集できる状況を整えた。このように、種々の認知的メタプロセスの実証とともに、他の認知活動との関連性が、多様な種で、かつ多様な発達段階の個体で明らかにされつつある。目標の達成に向けて、研究は順調に進んでいる。
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