研究課題/領域番号 |
20220005
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
酒井 邦嘉 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (10251216)
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研究分担者 |
佐々木 倫子 桜美林大学, 言語学系, 教授 (80178665)
古石 篤子 慶應義塾大学, 総合政策学部, 教授 (20186589)
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キーワード | 言語 / 脳機能 / 機能イメージング / 文法 / バイリンガル教育 / バイリテラシー / 言語環境 / 書記日本語評価プログラム |
研究概要 |
ろう者を対象としたfMRI研究では、約30名の参加者の詳細な解析を終えた。日本手話の単語・文法・文章理解の3段階に対応して、左前頭葉の活動が背側から腹側へと段階的に広がっていき、特に文章理解では左優位ではあるが両側性の言語野の脳活動が観察された。また、左前頭葉の活動量は、文章理解の課題成績に対して負の相関を示すことが初めて明らかとなった。これは、日本手話の運用能力に対する個人差を反映している脳活動と考えられ、興味深い知見である。研究代表者らは、文章理解の中枢が左下前頭回腹側部(ブロードマンの45/47野)であることを提案してきたが、本研究の成果は、それを裏付ける知見であり、さらに文法中枢との相互作用に支えられていることを示している。以上の結果は、手話と音声言語の普遍性を裏付けるものである。 佐々木担当のろう児の書記日本語能力の育成と評価に関して、次の2種類の研究を進めた。近年、第二言語教育においては教室外の第二言語環境の重要性が認識されている。そこで、手話と書記日本語をつなぐ辞書を例に採りあげ、IT環境の発達とろう児の書記日本語運用との関係の一端をまとめた。もう一点は書記日本語能力育成/評価プログラムである「日本語ゲーム」の再改訂である。本年度は新たなエリアを設け、そこでは「仲間はずれ」「まとめることば」「私は誰?」において、メタ言語的能力を、「算数」では数学リテラシーを、「力だめし」ではビジュアル・リテラシーとの統合的能力評価をそれぞれ目的とする100題を追加した。 古石担当の研究では、次の2つのことを柱にした。1つはろう児のバイリテラシー育成に関してのこれまでの研究成果の一部を外部に対して公表することであり、他の1つは新たな海外での研究拠点の調査である。1つ目に関しては、前年度に行った国際セミナー「ろう児のバイリテラシー育成」での招待講演者の講演を日英2言語で印刷するために日本語への翻訳を行ったことと、カナダDrury校でのろう児のバイリンガル教育の実践をDVDにまとめたものを広く公開し、その意義を訴えたことである。2つ目はカナダ・オンタリオ州とフランスにおいてろう児のバイリテラシー育成の観点から教育の実態を探った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
言語脳科学からのアプローチに関しては、手話と音声言語との脳内処理の対応を明確に示すために、日本手話を対象とする新たなfMRI実験の準備と並行して、健常者および脳腫瘍患者を対象とするfMRI実験を進めた。それらの成果は、3件のプレス発表を含む7報のオリジナル論文として既に発表済みであり、順調に研究が進展している。一方、近年普及が進むスマートフォンなどの現時点で使用できるアプリが、辞書ツールをはじめとして、ろう児の言語環境としてはきわめて不十分であることを論文にまとめた。さらに、書記日本語能力育成/評価プログラムの「日本語ゲーム」の再改訂を終えることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
脳活動の測定については、小学生から大人までの幅広い年齢差や手話の獲得期間だけでは説明のつかない言語能力や脳活動の個人差に注目し、これを定量的に評価したい。書記日本語能力育成/評価プログラム「日本語ゲーム」を開発に関しては、他のろう学校同様、本研究協力校の生徒数は限られており、その有効性を検証するに足るデータ量が不足している。また、ゲームでは、IT能力が成績に差をもたらし、日本語能力のみの測定が行えるわけではない。最終年度には、評価プログラムにパーフォーマンす評価の視点を組み込むこと、複数協力校を得ることを目指すことと、データ分析の精密化で解決を図りたい。また、カナダのDrury校、およびSt James Whitney School for the Deafにおいて、いかにして言語力評価を行っているか、またその結果と学力との関係をどのように見ているかを調査したい。
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