研究課題/領域番号 |
20220010
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田畑 泰彦 京都大学, 再生医科学研究所, 教授 (50211371)
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研究分担者 |
山本 雅哉 京都大学, 再生医科学研究所, 准教授 (10332735)
梅澤 明弘 国立成育医療センター, 生殖医療部, 部長 (70213486)
出沢 真理 東北大学, 大学院・医学系研究科, 教授 (50272323)
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キーワード | カチオン化多糖 / 遺伝子導入キャリア / 3次元スポンジ足場 / バイオリアクタ / 未分化間葉系幹細胞 / バイオマテリアル / 幹細胞治療 / 細胞の生物機能改変 |
研究概要 |
再建外科治療と移植治療に並ぶ第3の治療である再生医療には2つのアプローチがある。1つ目は、細胞移植による生体組織の再生誘導である。2つ目が、バイオマテリアルと医工学技術を利用して、細胞の増殖分化を促し、生体組織の再生誘導を起こす生体組織工学アプローチである。この2つのアプローチは、これまで別々に行われてきたが、これらをうまく組み合わせることで、より治療効果が高まることが期待される。本研究の目的は、移植に用いる幹細胞の生物機能を高めるための生体組織工学技術の開発である。本研究では、幹細胞へ遺伝子物質を導入する材料と培養技術を開発するとともに、幹細胞の生物機能の改変、増強について評価する。 本年度は、細胞への遺伝子導入効率を高める方法として、細胞内での遺伝子の徐放化について検討した。用いた細胞は、ラット骨髄より単離した骨髄由来未分化間葉系幹細胞である。遺伝子としては、small interfering RNA (siRNA)を取り上げた。アイデアは、遺伝子を含む生体吸収性ハイドロゲル微粒子を作製し、それを細胞内に取り込ませ、細胞内での微粒子の分解とともに遺伝子を細胞内で徐放化させることである。まず、MSCに取り込まれる微粒子サイズは1μm以下とすることが必要であるため、ナノオーダーサイズの粒子をコアセルベーション法により作製した。siRNAを含むゼラチン水溶液にアセトンを滴下することにより、水溶液中でコアセルベートが形成され、500μm直径のsiRNAを含むゼラチンハイドロゲルナノ粒子が得られた。これらのナノ粒子を異なる濃度のグルタルアルデヒド(GA)で化学架橋した。GA濃度の増加とともに、ナノ粒子の分解は遅くなり、それとともにsiRNAはより長い期間にわたって徐放されることがわかった。また、粒子の分解性に関係なく、いずれのナノ粒子もMSCに取り込まれ、細胞に対する毒性は認められなかった。細胞内でのsiRNAの徐放性を調べたところ、GA濃度の増加とともに、より長い期間にわたってsiRNAが徐放された。次に、siRNAを含むナノ粒子による遺伝子発現の抑制効果を調べた。その結果、細胞内でより長くsiRNAが徐放されているほど、その抑制効果の持続期間が延長することがわかった。これらの結果は、ナノ粒子により細胞内でsiRNAが徐放化され、その徐放期間によりsiRNAの遺伝子発現抑制作用の期間がコントロール可能であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初期の研究計画通りに研究は進んでいると考えられる。コアセルベーション法により、得られた均一サイズをもつ分解性の異なるナノ粒子を用いることで、細胞内でのsiRNAの徐放技術を確立できた。この方法論は、siRNA以外の薬の細胞内への取り込みにも有望である。このナノ粒子を利用して異なる薬の細胞内での徐放化が可能となり、これは副次的な成果である。加えて、架橋度によってナノ粒子の含水率が異なる。この含水率によって細胞内への取り込みが影響されることもわかり、これは当初の計画では考えていなかった成果である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに得られた細胞の生物増強、改変技術を利用して、計画通り、改変細胞の生物活性をin vitroとin vivoで評価していく予定である。加えて、培養方法の工夫も行い、より効率のよい細胞の遺伝子改変を目指す。 研究計画の変更あるいは研究遂行上での問題点はない。
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