研究課題
POPs候補物質の代替品(BTBPE:トリブロモフェノキシエタン、DBDPE:デカブロモジフェニルエタン、DP:デクロレンプラスなどの臭素系難燃剤)の他、消費量が増加している有機リン系難燃剤(リン酸エステル類)についてLC-MS/MS、GC-MSによる分析法を開発し、イガイや堆積物などの生物環境試料の分析を試みたところ、BTBPEの汚染はアジア地域では未だ進行していないこと、DBDPEは途上国に比べ先進国で汚染レベルが高いこと、DPを含めこれら代替難燃剤汚染の歴史トレンドは近年上昇傾向にあること等が判明した。また、リン酸エステル類を途上国のヒト母乳から初めて検出した。ベトナムe-waste処理地域の住民から採取した血液・母乳試料を分析したところ、母乳から臭素化ダイオキシン類が検出され、e-wasteの不適正処理がその曝露要因となっていることを指摘した。また、血中のバイオマーカーと有害物質濃度の相関解析から、鉛曝露によるヘモグロビンの代謝異常やPCBsによる甲状腺ホルモンのかく乱などが示唆された。カズハゴンドウなどの海棲哺乳動物の血液・肝臓・脳試料等を対象に、PCBs・PBDEsおよびその水酸化代謝物であるOH-PCBs・OH-PBDEsやメトキシ化PBDEs (MeO-PBDEs)を測定し、その体内分布や代謝動態、起源等について解析したところ、OH-PCBs・OH-PBDEsが脳に移行すること、鯨類に蓄積するOH-PBDEsの大半は、人為起源のPBDEs代謝物よりも自然起源のMeO-PBDEsに由来することが示唆された。野生高等生物の抽出液を化学分画し、p,p'-DDEおよひ有機スズ化合物が抗アンドロゲン受容体活性物質であることを同定した。難分解性有機汚染物質とconstitutive androstane receptorの結合アッセイ系を構築し、ポリ臭素化ジフェニルエーテルがハイリスク物質であることを明らかにした。また、水酸化PCBsの暴露による神経形成異常は甲状腺ホルモンの機能かく乱に起因しないことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
サブテーマ1の分析法開発は、予定した有害物質の大半に関してほぼ確立できた。また、サブテーマ2、3および6の広域汚染の実態解明、汚染源と歴史トレンドの解析に関する課題も順当な成果を得ている。サブテーマ4の生物蓄積の特徴解明のデーマは水酸化代謝物の研究が進展し当初計画以上の成果を上げた。サブテーマ6の影響評価は成果の野外への適用と併せて順調に進行している。論文発表および学会発表も活発に行い、また関連課題で研究代表者(田辺信介)が紫綬褒章を受章するなど、研究の達成度・充実度は高いと自己評価している。
平成23年度の研究進捗状況報告書(中間評価)に記述したように、分析機関の相互検定、ハイリスク物質の同定・定量、既存のPOPsの化学分析、他のPOPs候補物質の測定、鯨類の漂着・病理解明等に係る研究者ネットワークの構築と試料採取、バイオアッセイ系で活性を示す原因物質の同定、化学物質と影響との因果関係を立証する実験デザインの構築、歴史トレンド復元のための試料採取等が検討事項であったが、これらはすでに着手し、平成23年度の実績として成果を得たものもあるなど、予定どおりほぼ順当に推進できていることから、計画の変更や遂行上の問題点はない。
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