原子や分子をナノスケールの精度で操作し、新ナノ物質を思い通りに作り上げるためには、ナノスケールでの物質の自然法則を解明し、これを未来の実用技術に発展させる基礎研究が不可欠である。しかし、これまで、絶縁体表面での原子スケールの安定かつ再現性のある原子分子操作は実現されていない。そこで、本研究は、「複合極限場(極低温、強磁場、超高真空)環境で動作する現有の非接触原子間力顕微鏡を駆使して、絶縁体表面上で原子や分子を力学的に操作する未踏の技術を確立すると共に、ナノ構造体の新規な物性を探索する」ことを目的とする。本年度は、以下の研究課題について検討した。 1) 3次元フォース分光法の開発と3次元ポテンシャルネエルギー面の測定 絶縁体表面での原子分子操作の機構を明らかにするためには、探針・試料間の3次元ポテンシャルエネルギー分布を導出し、表面原子の吸着サイトと最近接サイト間のエネルギー障壁の大きさを議論することが本質的に重要である。そこで、探針・試料間距離を変えながら、探針・試料間の相互作用力によるカンチレバーの共振周波数の変化(周波数シフト)を3次元的に測定し、数値計算により、力の3次元分布、さらにはポテンシャルエネルギーの3次元分布を導出した。 2) 絶縁体表面での原子分子操作の機構解明 原子分子操作の機構を明らかにするため、原子分子操作中の探針の軌跡、探針・試料間のエネルギー散逸、ポテンシャルエネルギーの3次元分布を同時に解析することにより検討した。 3) 高感度静電気力分光法の実現 現有の複合極限場で動作する原子間力顕微鏡に静電気力分光機能を取り付け、絶縁体表面上に形成されるナノ構造体の電荷移動に伴うポテンシャルの変化や電子状態を高感度に捉えることができるようにした。
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