研究課題/領域番号 |
20221005
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 耕三 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 教授 (00232439)
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研究分担者 |
浦山 健治 京都大学, 大学院・工学研究科, 准教授 (20263147)
横山 英明 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 准教授 (80358316)
酒井 康博 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 助教 (30401235)
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キーワード | 高分子構造・物性 / 高分子合成 / ナノ材料 / 超分子化学 |
研究概要 |
これまでの研究で、多様な主鎖の環動高分子材料を合成する方法の1つとして、主鎖上に2重結合を有するポリブタジエン(PBD)を主鎖とするポリロタキサン(PR)の合成に成功した。本年度は、主鎖の二重結合に水素付加を施すことによりPR主鎖構造の制御を試みた。その結果、PBD-PRの水素化自体には成功したが、水素化率は15%程度と低く、全ての二重結合を水素化(100%)するまでには至っていない。水素化率の向上ならびに系統的制御の実現のため、PBD-PRの水素化方法を引き続きさらに検討していく必要がある。これらのPR主鎖構造を制御することは、まさにPR上の環状分子の運動性制御に直結する。 本研究課題の遂行過程で新たに発見された、環動ゲル中の未架橋環状分子の配置エントロピー変化により発生する弾性、すなわちスライディング弾性について、理論的解釈を与えた。粘弾性スペクトルから得られる緩和時間は架橋点間分子量の3乗に比例しており、このような振る舞いはレプテーション、すなわち高分子鎖の軸方向のみに制限された拡散によって説明できる。これはまさに高分子鎖のスライディングを示している。環動ゲルに変形を加えると、主鎖のエントロピー変化によるゴム弾性がスライディングによって緩和し、スライディングに伴うCDの配置エントロピーの変化により、「スライディング弾性」が発生すると考えられる。 環動ゲル膜の物質透過特性とネットワーク構造との相関を調べるため、環状分子にアセチル基を修飾したポリロタキサン(AcPR)を架橋した温度応答性環動ゲルを作製し、色素分子の拡散挙動を調べた。AcPRゲルは低温では透明であるが、高温では白濁し、この転移は主鎖上の環状分子の凝集/解離によるものと考えられている。このようなネットワーク構造の転移に伴って、ゲルの物質透過特性も化学ゲル的な特性と環動ゲル的な特性の間を明確に転移した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究期間の前半の段階で既に、主鎖の異なる環動高分子材料の合成に成功しており、主鎖構造の系統的な制御による環状分子の運動性制御も順調に進んでいる。また、未架橋環状分子の配置エントロピーの変化により発生する「スライディング弾性」の発見という新たなブレイクスルーがあった。さらに,環状分子の運動性に起因する耐傷特性を備えた、環動高分子適用塗膜が実用化され、携帯電話のコーティングに採用された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策としてはまず、PBD-PRの水素化方法を引き続きさらに検討し、水素化率の向上と主鎖構造の系統的な制御を実現する。加えて、付加する分子を様々に変え、多様な主鎖を有するPR合成への展開を図る。とれにより、PR上の環状分子の運動性制御を実現する。また、溶媒を含む環動ゲルで見られたスライディング弾性が溶媒を含まない環動エラストマーの系でも現れるかを調べ、スライディング弾性の普遍性を検証する。さらに、環動高分子ネットワーク中における主鎖のスライディング特性(滑車効果)を、光弾性測定により検証する。本手法は、異なる主鎖や環状分子の組み合わせに対して環動性を評価し、比較するための決定的な手段となる。
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