研究概要 |
小分子RNAとArgonauteタンパク質からなる複合体が関与する遺伝子発現制御(抑制)機構を総称してRNAサイレンシングと呼ぶ。ショウジョウバエには5種類のArgonauteが存在し、これらはほぼ全ての細胞で発現しているタイプ(AGOタイプ:AGO1, AGO2)と生殖細胞系で特異的に発現しているタイプ(PIWIタイプ:AGO3, Aub, Piwi)に分類される。我々はこれら5種類全てに対する特異的な」モノクローナル抗体を作製し、それらを用いて相互作用する内在性小分子RNAの同定を進めている。本年度の成果は、以下のとおりである。 1.体細胞においてAGO2は種々の転移因子に由来する小分子RNAと直接結合しており、AGO2自身が有するendonuclease活性(Slicer)により転移因子の転写産物を切断・分解することを示した。また、小分子RNAがDicer依存的に合成されることを示し、endo-siRNA(esiRNA)と命名した。以前、我々は生殖細胞系においてPIWIタイプArgonauteが転移因子に由来する小分子RNA(piRNA)と結合し、転移因子の発現を抑制することを示したが、今回の成果は体細胞においては違った種類のArgonauteと小分子RNAが転移因子の発現抑制に用いられていることを示している。 2.piRNAはesiRNAと同様に、その多くが転移因子に由来しているが、次世代シーケンサとそこから得られる大量情報の解析により、卵巣においてある転写因子(traffic jam: tj)の3'UTRに由来するpiRNAが多数存在すること、また、これらはPiwiと相互作用していることを見いだした。これらは新しいタイプのpiRNAであり、mRNA-derived piRNA(me-piRNA)と命名した。これらme-piRNAは細胞接着因子遺伝子の核酸配列と高い相補性を示し、実際、piwi変異体ではこの細胞接着因子mRNA量の増加が見られた。これはPiwi-piRNA複合体がタンパク質をコードする細胞の遺伝子の発現に関与することを示唆する最初の例である。
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