研究概要 |
本研究の目標は、転移因子(transposable elements : TE)とRNAサイレンシング機構の間の'軍拡競争'の結果が複雑な遺伝子発現制禦を進化させ、それらが特にArgonauteを中核とする「生命活動を支えるプログラム」に組み込まれてきたことを理解することにある。このため、ショウジョウバエをモデル系として用い、生殖細胞特異的な小分子RNAの一種であるpiRNAとその相互作用パートナーArgonauteであるPIWI(AGO3, Aub, Piwi)タンパク質の機能解析、特にpiRNAによる宿主遺伝子の制御の可能性の検討、を進めた。生化学、遺伝学そして生物情報科学的手法を用い、ショウジョウバエ卵巣におけるpiRNAの標的として細胞接着因子FasIIIを同定した。FasIIIは生殖幹細胞と体細胞nicheとの相互作用に必須の分子であり、この分子の発現がPiwi-piRNA複合体により制御されていること、つまり、生殖幹細胞の形成とその維持にpiRNA経路が必須であることを始めて報告した(Nature 2009)。これは元々TE発現制御機構として進化してきたRNAサイレンシング機構が宿主の「生命活動を支えるプログラム」に組み込まれてきたことを示す重要な発見である。さらに、我々の生物情報科学的解析結果は、piRNA経路がFasIII以外の多くの宿主遺伝子の発現制御に関与している可能性を示唆する。
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